国内から28名、海外から3名が参加して第4回webミーティングが行われました。京都大学のCheng Ma特定助教が最新の研究成果を発表し、活発な議論がなされました。
The 4th web meeting was held with 28 participants from Japan and three from overseas. Dr. Cheng Ma, a specially appointed assistant professor at Kyoto University, presented his latest research findings, which sparked an active discussion.
We usually have a meeting on the second Tuesday of the month.
(Japan time)
Apr 8 Nishinakamura
May 13 Yokoo
June 17 Takasato (3rd Tuesday to avoid overlap with ISSCR)
July no Zoom meeting (Kumamoto Retreat on July 26-27)
Aug no Zoom meeting
Sep 9 Yokokawa
Oct 14 Nishinakamura (switched from Tanigawa)
Nov 11 Tanigawa (switched from Nishinakamura)
Dec 9 Yokoo
Jan 13 Takasato
Feb 10 Yokokawa
Mar 10 Tanigawa
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2025.7.25-28 熊本でリトリート(対面国際会議)及び発生研ジョイントセミナーを開催しました。
熊本大学クスノキテラスでにてリトリート(非公開の対面会議)を開催しました。国内外から40名(国内33名、米国4名、イスラエル2名、ドイツ1名)が熊本に集まり、14件の口頭発表と18件のポスター発表を行いました。これによって最先端の研究成果を共有し、活発な議論を行いました。また26名が阿蘇へのツアーに参加して交流を深めました。国内外の腎臓オルガノイド研究者が一堂に介した貴重な機会となりました。
その前後の7/25と7/28にはAndrew McMahon教授、Jacob Hanna教授、Ryuji Morizane准教授による公開のセミナー(発生研ジョイントセミナー)が開催され、学内の多くの研究者と交流しました。
Ola Shalaby, Tomoko Ohmori, Koichiro Miike, Shunsuke Tanigawa, Luh Ade Wilan Krisna, Alessia Calcagnì, Andrea Ballabio, Yoshiaki Kubota, Laura S. Schmidt, W. Marston Linehan, Takaaki Ito, Masaya Baba, Ryuichi Nishinakamura. Folliculin deletion in the mouse kidney results in cystogenesis of the loops of Henle via aberrant TFEB activation. The American Journal of Pathology, online (2025)
doi:https://doi.org/10.1016/j.ajpath.2025.05.010
[概要説明]
フォリキュリン(FLCN)は、腎嚢胞や癌を含む様々な症状を特徴とするBirt-Hogg-Dubé(BHD)症候群の原因遺伝子です。腎臓発生分野(西中村隆一教授)の大学院生Ola Shalabyさんらは、ネフロン特異的Flcnノックアウトマウスが、ネフロン全域にわたって嚢胞形成を示すことを見出しました。シングルセルRNAシークエンスにより、特にヘンレのループで多くの遺伝子が増加していることが明らかになりました。これらの遺伝子にはライソゾームやmTORC1活性化に関連する遺伝子が含まれ、TFE3/TFEBの標的と考えられました。そこでFlcn/Tfebのダブルノックアウトを作製したところ、症状のほとんどが消失しました。今回の報告は、ネフロンの発生、特にヘンレのループにおけるFLCN-TFEBシグナル伝達経路の重要な役割を明らかにしたもので、BHD症候群の病態解明や創薬に貢献することが期待されます。
本研究成果は、科学雑誌「The American Journal of Pathology」のオンライン版に6月9日に掲載されました。本研究は、文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(S)、国際先導研究「腎臓を創る」)の支援を受けました。
[背景]
Birt-Hogg-Dubé(BHD)症候群は、腎嚢胞および腫瘍、良性皮膚丘疹、肺嚢胞、自然気胸等を特徴とする常染色体優性疾患であり、フォリキュリン(FLCN)はBHD症候群を引き起こす癌抑制遺伝子として知られています。
腎臓の最小機能単位であるネフロンは、それぞれが糸球体、近位尿細管、ヘンレのループ、遠位尿細管から構成されています。ヘンレのループは、皮質髄質軸に沿ったユニークなループ構造をしており、尿の濃縮に必須です。腎臓発生分野(西中村隆一教授)では腎臓発生に関係する遺伝子のノックアウトマウスを多数作ってきており、これが腎臓オルガノイド作製の基盤になっています。そこで今回はフォリキュリン(マウスの場合はFlcnと記載)に焦点をあてました。
[研究の内容]
ネフロン特異的Flcnノックアウトマウスを作製したところ、ネフロン全域、特にヘンレのループに多数の嚢胞が形成されました。ノックアウトマウスのほとんどは出生後まもなく死亡し、症状の軽いものだけが生き残りました。シングルセルRNAシークエンスにより、特にヘンレのループにおいて、多くの遺伝子が増加していることがわかりました。これらには、ライソゾームやmTORC1活性化に関連する遺伝子が多く含まれており、転写因子TFE3/TFEBの標的と考えられました。そこでFlcn/Tfe3のダブルノックアウトを作製しましたが、糸球体嚢胞が改善したのみでした。一方Flcn/Tfebのダブルノックアウトでは症状のほとんどが劇的に消失しました。したがって、Flcnの欠損はTFEBの異常な活性化を介して嚢胞形成を引き起こすことが明らかになりました(図)。
[成果・展開]
今回の報告は、ネフロンの発生、特にヘンレのループにおけるFLCN-TFEBシグナルの重要性を明らかにしたもので、BHD症候群の初期病態の解明に貢献することが期待されます。TFEB阻害剤はBHD患者に対する有望な治療法となるかもしれません。FLCNを欠損させたヒト腎臓オルガノイドは、このような治療法の有効性を調べるのに有用である可能性が出てきました。
[用語解説]
・ネフロン:腎臓の最小機能単位であり、それぞれが糸球体、近位尿細管、ヘンレのループ、遠位尿細管から構成されている。ヒト成人の腎臓には約100万個のネフロンが存在する。
・ヘンレのループ:皮質髄質軸に沿ったユニークなループ構造であり、尿の濃縮に必須。
・ライソゾーム:細胞内の小器官。この表面上でmTORCの活性化が起きる。
・mTORC: 細胞の増殖を制御する重要な分子
・TFEBとTFE3: ライソゾーム関連遺伝子などを制御する転写因子
[図の説明]
Flcn-TFEBシグナルは腎臓における嚢胞形成に関与する
正常な状態では、FlcnはGTPase活性化タンパク質(GAP)として働き、RagC/DとRagA/B複合体を活性化する。この複合体は、mTORC1のリソソーム表面へのリクルートを促進し、活性化されたmTORC1はS6キナーゼを含む多くの基質をリン酸化する。同時にTFEBをリン酸化して不活性化する。しかしFlcnがない場合、RagC/Dは不活性なままであり、mTORC1を介してTFEBをリン酸化することはできない。リン酸化されていないTFEBは核に移動し、そこでRagC/D、Lamtor1、リソソーム生合成に関連する遺伝子など、標的遺伝子の転写を活性化する。これがmTORC1の過剰活性化を引き起こし、過剰な細胞増殖と嚢胞形成を引き起こす。(上記論文Shalaby et al.から改変)
Yutaro Ibi, Koichiro Miike, Tomoko Ohmori, Chen-Leng Cai, Shunsuke Tanigawa, Ryuichi Nishinakamura. In vitro generation of a ureteral organoid from pluripotent stem cells. Nature Communications, 16: 5309, 2025.
https://doi.org/10.1038/s41467-025-60693-6
[概要説明]
尿管は腎臓で生成された尿の出口を構成し、腎臓が機能を果たすために必須の臓器です。尿管は上皮とそれを取り囲む間質で構成されており、これらの前駆細胞が相互作用を繰り返し発生します。この2つの構成組織のうち尿管上皮の前駆細胞 (尿管芽) を多能性幹細胞 (マウスES細胞やヒトiPS細胞) から人為的に誘導する方法は、熊本大学発生医学研究所の腎臓発生分野 (西中村隆一教授) をはじめ複数報告されていましたが、尿管間質の前駆細胞を誘導する方法は世界的に見ても確立されていませんでした。今回、同グループの伊比裕太郎大学院生らは、この尿管間質の前駆細胞を多能性幹細胞から誘導する方法を開発しました。さらに誘導した尿管間質前駆細胞を、マウス胎仔由来の尿管上皮や多能性幹細胞から誘導した尿管芽と組み合わせることで、人工的に尿管組織 (尿管オルガノイド) を再構成することに成功しました。
本研究は、尿管という腎臓からの尿排泄に必須となる構造を試験管内で多能性幹細胞から構築することに成功した初めての報告です。この技術を腎臓オルガノイドと組み合わせれば、尿が作られて出ていくという臓器本来の機能を持った移植用の腎臓を作るという次世代の再生医療に向け大きな前進となります。また、尿管疾患の病態解明と創薬開発に繋がることも期待されます。
本研究成果は、科学雑誌「Nature Communications」のオンライン版に6月20日に掲載されました。本研究は、文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(S))、国際先導研究「腎臓を創る」、JST創発的研究支援事業の支援を受けました。
[背景]
腎臓は人体の恒常性維持を担う重要な臓器ですが、再生しない臓器です。腎不全による人工透析患者さんは日本国内だけでも34万人を超えており、腎移植の機会も限られていることから腎臓の再生医療に期待が集まっています。
近年の幹細胞生物学の進歩により、多能性幹細胞から腎臓組織を人工的に作ることが可能になっています。熊本大学発生医学研究所腎臓発生分野はこれまで、多能性幹細胞から腎臓を構成する前駆細胞の誘導法を世界に先駆けて確立し、特にマウスES細胞から複雑な三次元構造(高次構造)を有する腎臓組織 (腎臓オルガノイド) を作ることに成功しました (Cell Stem Cell 2014 & 2017, Nat Commun 2022)。しかしこの腎臓組織には産生された尿の排泄経路である「尿管」は付随しておらず、このことが腎臓オルガノイドを移植医療に応用する際のボトルネックになっています。
尿管は上皮と間質で構成され、これらの前駆細胞の相互作用により発生します。これらのうち尿管上皮の前駆細胞 (尿管芽) への誘導法は、同グループを含め (Cell Stem Cell 2017) 複数報告されていますが、残る尿管間質の前駆細胞への誘導法は世界的にみても確立されていませんでした。今回は、この尿管間質の前駆細胞を多能性幹細胞から誘導する方法を確立し、マウス胎仔由来の尿管上皮、もしくは多能性幹細胞から誘導した尿管芽と組み合わせることで、多能性幹細胞から尿管組織を作ることを目的としました。
[研究の内容]
まず胎児期のマウス腎臓、尿管を用いて、尿管間質の前駆細胞に特徴的な遺伝子群やその発生メカニズムを同定しました。次に、尿管間質の前駆細胞の起源である後方中間中胚葉と呼ばれる組織を単離し、それを尿管間質の前駆細胞まで誘導する培養条件を確立しました。これらを基に、マウスES細胞とヒトiPS細胞から後方中間中胚葉を経由して尿管間質の前駆細胞を誘導する方法を開発しました。この誘導した尿管間質の前駆細胞を、マウス胎仔由来の尿管上皮や多能性幹細胞から誘導した尿管芽と組み合わせて試験管内で培養し、分化した尿管組織を作ることに成功しました(図)。さらにこれらの方法は、尿管に異常をきたす遺伝子の機能解明に利用できることも示しました。
[成果・展開]
本研究は、尿管間質の前駆細胞の誘導法を確立し、生体内の尿管上皮や誘導した尿管芽と組み合わせることで、人工的な尿管組織の作成を実現したものです。尿管という生体内で腎臓が機能を発揮するために必須な構造を、試験管内で多能性幹細胞から構築することに成功した初めての報告であり、尿管に異常がみられる様々な疾患の病態解明に応用が可能です。また、すでに同グループから発表済みである、高次構造を有する腎臓オルガノイドと繋ぎ合わせることができれば、尿が作られて出ていくという臓器本来の機能を持った腎臓オルガノイドを試験管内で作って移植できるようになる可能性があります。今後のステップとして、尿管オルガノイドの質を高め、腎臓オルガノイドに繋げる研究が期待されます。
[用語解説]
・尿管:腎臓で産生される尿を体外に排泄するために必要な構造。管状の構造をしており、内側に位置する上皮とそれを取り囲む間質で構成される。
・多能性幹細胞:ES細胞やiPS細胞など。様々な体細胞に分化し得る万能細胞。
・ES細胞:受精卵から作られた多能性幹細胞。胚性幹細胞。
・iPS細胞:皮膚や血液などの体細胞から作られた多能性幹細胞。
・尿管芽:尿管上皮の前駆細胞。腎臓内の構造の一部でもある集合管の前駆細胞でもある。
[図の説明]
多能性幹細胞から尿管間質の前駆細胞への誘導法を開発し(赤矢印)、マウス胎仔由来、もしくは多能性幹細胞から誘導した尿管上皮の前駆細胞と組み合わせることで人工的に尿管組織を作ることに成功した(写真上段:マウスES細胞由来の尿管間質前駆細胞とマウス胎仔由来の尿管上皮を組み合わせた尿管組織を示す)。作製した尿管組織は生体内の尿管と同様に分化していることが確認できた(写真下段、作製した尿管組織の断面を示す)。
国内から29名、海外から3名が参加して第3回webミーティングが行われました。理化学研究所の尾藤和浩さん(国際先導研究リサーチアソシエイト)が最新の研究成果を発表し、活発な議論がなされました。
We usually have a meeting on the second Tuesday of the month.
(Japan time)
Apr 8 Nishinakamura
May 13 Yokoo
June 17 Takasato (3rd Tuesday to avoid overlap with ISSCR)
July no Zoom meeting (Kumamoto Retreat on July 26-27)
Aug no Zoom meeting
Sep 9 Yokokawa
Oct 14 Tanigawa
Nov 11 Nishinakamura
Dec 9 Yokoo
Jan 13 Takasato
Feb 10 Yokokawa
Mar 10 Tanigawa
国内から24名、海外から3名が参加して第2回webミーティングが行われました。ワシントン大学セントルイス校の松井賢治さん(国際先導研究研究員)が慈恵医大在籍時の研究成果を発表し、活発な議論がなされました。
We usually have a meeting on the second Tuesday of the month.
(Japan time)
Apr 8 Nishinakamura
May 13 Yokoo
June 17 Takasato (3rd Tuesday to avoid overlap with ISSCR)
July no Zoom meeting (Kumamoto Retreat on July 26-27)
Aug no Zoom meeting
Sep 9 Yokokawa
Oct 14 Tanigawa
Nov 11 Nishinakamura
Dec 9 Yokoo
Jan 13 Takasato
Feb 10 Yokokawa
Mar 10 Tanigawa
ヒトiPS細胞由来腎臓オルガノイドを用いた近位尿細管モデルを開発
~薬物輸送体の機能解析と腎毒性評価のためのMicrophysiological systems (MPS)~
Summary:
We present a protocol for generating a proximal tubule-on-chip using hiPSC-derived kidney organoids. It includes organoid differentiation, proximal tubule cell isolation, and seeding on a chip, enabling enhanced transporter expression. The model supports evaluations of substrate transport by renal transporters, nephrotoxicity, and drug interactions.
本論文は、hiPSC由来の腎臓オルガノイドを用いて近位尿細管の生体模倣システム(Microphysiological systems (MPS))を作製するプロトコルを説明したものである。このプロトコルを用いると、オルガノイドの分化誘導、近位尿細管上皮細胞の単離、チップへの播種を通してトランスポーターの発現量が向上する。このモデルを用いて、腎トランスポーターによる基質輸送能、腎毒性、薬物相互作用等を評価することができた。
Affiliations of all co-researchers:
Ryuji Yokokawa, Cheng Ma
-Department of Micro Engineering, Kyoto University, Kyoto 615-8540, Japan
Toshikazu Araoka
-Center for iPS Cell Research and Application (CiRA), Kyoto University, Kyoto 606-8507, Japan
Minoru Takasato
-RIKEN Center for Biosystems Dynamics Research (BDR), Kobe 650-0047, Japan
-Graduate School of Medicine, Osaka University, Suita 565-0871, Japan
-Graduate School of Biostudies, Kyoto University, Kyoto 606-8501, Japan
Paper details:
Cheng Ma, Ramin Banan Sadeghian, Ryosuke Negoro, Kazuya Fujimoto, Toshikazu Araoka , Naoki Ishiguro, Minoru Takasato, Ryuji Yokokawa
Protocol to develop a proximal tubule-on-chip model based on hiPSC-derived kidney organoids for functional analysis of renal transporters
STAR Protocols, Volume 6, Issue 2, 2025, 103777, ISSN 2666-1667
https://doi.org/10.1016/j.xpro.2025.103777
熊本大学ホームページにプレスリリースが掲載されました。
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei-sentankenkyu/copy_of_20150205